療養指導
糖尿病の治療には患者さんの自己管理がもっとも大切です。
療養指導は、医療スタッフとともに患者さんの自己管理(療養)を指導することです。
▶︎ 基本的な考え方
▶︎ 糖尿病予備群と診断されたときには・・・
▶︎ 糖代謝異常の判定区分と判定基準
▶︎ 糖尿病の基礎知識
▶︎ 糖尿病と診断されたら
▶︎ 糖尿病の食事療法について
▶︎ 運動療法について
▶︎ 当院における療養指導について
はじめて当院を受診する糖尿病患者さんへ。
当クリニックでは、診察の前に問診票へ記入をしていただいております。ご自宅で簡単にメモ書きなどして来院していただけけますと、診察の待ち時間短縮になりますので、ご参考にしてください。
基本的な考え方
糖尿病は、1型糖尿病と2型糖尿病の2つのタイプに、分類されます。いわゆる、一般的にいうところの糖尿病は2型糖尿病を指します。インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす素因に、過食・運動不足・肥満・ストレスなどの外部環境により、インスリンを合成・分泌する膵臓のβ細胞の破壊・消失が起こるため、インスリンの作用不足の状態となり、糖尿病が発症します。これに対して、1型糖尿病はかって「小児糖尿病」といわれていましたが、ある体質をもつ人に感染症を起こすと、自己免疫的機序により、突然膵臓のβ細胞の破壊が急激に起こり、数日から数か月で、高血糖状態になり、インスリンを補充しないと、命に関わる状態になるタイプをいいます。
そのほかに、劇的な状態で症状が進むがいわゆる1型と違う「劇症1型」というタイプ。2型に良く似ているが、β細胞の破壊がゆっくりと進んでいく、「緩徐進行型1型糖尿病」というタイプもあります。いずれも血糖コントロールをしっかりと行い、合併症の進行を防ぎ、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持と寿命の確保が治療の目的です。
糖尿病予備群と診断されたときには・・・
■ 糖尿病予備群とは、正常型と糖尿病型との間の状態をいいますが、正常型に近い境界型と糖尿病に近い境界型では、その扱いが違います。とくに、糖尿病型に近い境界型では、数年で糖尿病を発症する確率が高いだけではなく、糖尿病同様に動脈硬化症が早く進みます。
■ 精密検査である「75gOGTT」が推奨される場合は
● 強く推奨される場合
(現在糖尿病の疑いが否定できないグループ)
・空腹時血糖値が110~125㎎/d1のひと
・随時血糖値が140~199㎎/d1のひと
・HbA1c(JDS値)が5.6~6.0%、HbA1C(NGSP値)が6.0~6.4%のひと
● 行うことが望ましい場合
(将来に糖尿病の発症リスクが高いグループ)
高血圧症、脂質異常症(高コレステロール血症・高中性脂肪血症)や肥満症など動脈硬化のリスクを持つひとは、とくに施行が望ましいです。
・空腹時血糖値が100~109㎎/d1のひと
・HbA1c(JDS値)が5.2~5.5%、HbA1C(NGSP値)が5.6~5.9%のひと
・家族歴に糖尿病のひとや肥満が存在するひと
糖代謝異常の判定区分と判定基準
糖代謝以上の判定区分と判定基準
①早朝空腹時血糖値126mg/dl以上 | ①~④のいずれかが確認された場合は「糖尿病型」と判定する。 ただし①~③のいずれかと④が確認された場合には、糖尿病と診断してよい。 |
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②75gOGTTで2時間値200mg/dl以上 | |
③随時血糖値200mg/dl以上 | |
④HbA1c(NGSP)が6.5%以上 【HbA1c(JDS)が6.1%以上】 |
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⑤早朝空腹時血糖値110mg/dl未満 | ⑤および⑥の血糖値が確認された場合には「正常型」と判定する。 |
⑥75gOGTTで2時間値140mg/dl未満 |
●上記の「糖尿病型」「正常型」いずれにも属さない場合は「境界型」と判定する。
注意2)正常型であっても1時間値が180mg/dl以上の場合は180mg/dl未満のものに比べて糖尿病に悪化する危険が高いので、境界型に準じた取扱い(経過観察など)が必要である。また、空腹時血糖値が100~109mg/dlは正常域ではあるが、「正常高値」とする。この集団は、糖尿病への移行やOGTT時の耐糖能障害の程度からみて多様な集団であるため、OGTTを行うことが勧められる。
糖尿病の基礎知識
糖尿病とは?
●糖尿病は紀元前から存在した古い病気です。
●糖尿病という病気は古くから知られており、B.C.1500年ごろに書かれたと推定されているエジプトのパピルスに糖尿病に関する症状の記載があります。
●日本の糖尿病患者の第1号は、平安時代の貴族で藤原道長と言われていますが、藤原道長の症状は、約1000年前の”小右記”という記録に「日夜を問わず水を飲み、口は乾いて力無し、但し食が滅ぜず」と書き残しています。糖尿病のため、後年には合併症で目が見えなくなったとも記述されています。
世界の糖尿病人口と分布(2012)
世界の糖尿病人口上位10か国(2012)
●成人の糖尿病有病者が多い国の世界上位は、1位中国(9,230万人)、2位インド(6,300万人)、3位米国(2,410万人)、4位ブラジル(1,340万人)、5位ロシア連邦(1,270万人)。
●日本の糖尿病有病者は710万人で、世界第9位です。糖尿病有病率は、5.12%。糖尿病が原因で亡くなっている人の人数は6万2,949人。糖尿病と診断されず治療を受けていない数は351万1000人に上がります。
糖尿病は
●膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されるインスリンというホルモンが、分泌不足となるか、またはインスリンの作用が出にくくなるような抵抗性の増大により、体の組織において代謝の調節がうまくできなくなるために、血糖値(血液中のブドウ糖)が上昇し、慢性的な高血糖の状態となる代謝疾患のことです。
●中等度以上の高血糖の持続は、口渇・多飲・多尿・体重減少・易疲労感といった特徴ある症状を呈しますが、それ以外は自覚症状が乏しく、病識を持たない場合が多いです。
●慢性的に続く高血糖は、最小血管障害や神経障害を起こし、いわゆる糖尿病の
3大合併症(末梢神経障害・網膜症・腎症)のみならず、動脈硬化や白内障などの合併症も起こし進展させます。
糖尿病の合併症
糖尿病性神経障害
糖尿病に三大合併症のなかで、もっとも早期に症状が出現するのが糖尿病性神経障害です。高血糖の状態が長く続くことにより、神経細胞の代謝異常(ポリオール代謝の亢進)により神経細胞が変性したり、また神経を栄養する細い血管や赤血球の傷害により微小循環障害が起こり、神経細胞の虚血・低酸素状態を引き起こすなどの原因により、糖尿病神経障害が起こってきます。
神経のなかでも中枢神経から枝分かれして出ている”末梢神経”と呼ばれる神経が傷害を受けます。足先のしびれ感や痛み(患者さんの多くは「ちりちり」や「ちくちく」と表現します)ではじまり、進行するにつれ、知覚の低下が起こり、「砂を踏んでいるような」「靴下をもう1枚履いているような」と表現することが多くなります。このような状態のときには、冷感を訴えることが多く、冬季に”低温やけど”を起こしたり、靴擦れなどを悪化させ”糖尿病性壊疽”を引き起こしたりすることがあるので、注意が必要です。
糖尿病性網膜症
糖尿病を診断されても適切な治療がされずに、高血糖状態が長期間続くと、眼の奥にある(眼の底)網膜と呼ばれる大切な部分に走っている細い血管(微小血管)が傷害を受け、網膜症を発症してしまいます。糖尿病性網膜症は、早期に治療し血糖値の良好なコントロールにより進行を防ぎます。
網膜症は進行すると、失明の危険が高まります。厚生省の調査では、300万人が網膜症を発症し、年間約3,000人が失明しています。
網膜症の初期には自覚症状がないため、定期的に眼科を受診して、眼の状態を客観的に把握する必要があります。2型糖尿病では、糖尿病の診断時に約20%に人に網膜症が存在するともいわれています。すくなくとも、半年~1年に1回は眼科を受診して、眼科医から指導を受けましょう。
網膜症の進行具合に応じて、通院間隔は変わります。自覚症状がないからといって、自己診断で通院を中断しないようにしてください。
糖尿病性腎症
●高血糖の状態が長期続くことにより、腎臓に中にあるろ過装置の役目をする”糸球体”という大切な器官が傷害され、徐々にその機能が失われていきます。糖尿病の早期治療により、血糖値の良好なコントロールとともに血圧のコントロールが治療の中心になります。
糖尿病と診断されたら
糖尿病治療の基本は、食事療法・運動療法と薬物療法です。栄養士さんと栄養相談を行い、生活背景に合わせた食事療法を行い、適度な運動療法の実施。そして、症状に合わせて、適切な薬物療法を行い血糖コントロールを行います。
血糖コントロールの目標は、基礎医学や大規模疫学調査などにより、少しずつ変化していますが、2012-2013年に挙げられている糖尿病のコントロール目標は下記のとおりです。
日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2012-13より
糖尿病の食事療法について
糖尿病の記載は紀元前からありますが、科学的な研究が始まる近代まで、不治の病とされてきました。18世紀になり、糖尿病と膵臓との関係、そしてインスリンの発見により初めて治療の道が開けました。それまでは、民間療法としての食事療法、例えば食物を食べずに水しか飲まない方法などがありました。しかし、今はインスリンを筆頭に多種の薬が開発され、再生医療による完治も遠くない将来といわれる時代になりました。
糖尿病治療の三大柱は「食事療法」「運動療法」「薬物療法」です。では、糖尿病の食事療法とはいったいどういう治療なのでしょうか?まず大切なことは、糖尿病が発症する原因となるような食事を行わないということです。つまり、過食や偏食、高脂肪による肥満はインスリンの分泌や働きを悪くする、「インスリン抵抗性」という状態をつくります。更に、高脂肪は脂質異常症の悪化の原因となり動脈硬化を進めてしまいます。
では、過食とはどういうことでしょうか?一日のカロリーの所要量以上に必要なエネルギーを継続的に摂取する状態をいいます。その原因としては、規則正しい時間に食事が摂れず、その反動で早食いとなり、脳の満腹中枢が刺激されるまでいつまでも満足感が得られずに食べ過ぎてしまうことです。ですから、その逆に「規則正しい時間に食事をたべる」「食抜きをしない」「早食いをしない」「よく噛んでゆっくりと時間をかけて食べる(30分くらい時間をかけると良いとされている)」。そして、いわゆるドカ食いに注意が必要です。原因の多くは”我慢”のし過ぎ、無理な”我慢”の反動でストレスが強くなり、自律神経の乱れ、脳からの指令異常などが起こり、1個くらいなら、これくらいなら・・・となし崩し的に食事療法の失敗に繋がってしまいます。一気に100点を取ろうとするのではなく、まず60点を目標に、徐々に目標値を上げていくように、気持ちに余裕を持たせることが大切です。
適正なエネルギーとはどのように算出すれば良いのでしょか?年齢や性別、生活背景により数値は変わりますが、一般的に一日のエネルギーの所要量は、標準体重×身体活動量で算出します。標準体重はいわゆるBMIによる算出方法で、標準体重=身長(m)×身長(m)×22となります。身体活動量(体重1Kgあたりの必要カロリー)は、男性でデスクワークですと30キロカロリー、専業主婦で25~30キロカロリー、肉体労働の男性で35キロカロリーなどです。例えば、標準体重が60Kgの男性会社員ならば、60×30=1800キロカロリーが一日のカロリー所要量と算出されます。
次に、このカロリー所要量をどのような食品で摂取するのが一番良いのでしょうか。三大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂質を中心に、食物繊維やビタミン、ミネラルなど微量元素を過不足なく摂ることが必要です。ここで参考にしていただきたいのが、食品交換表という冊子です。日本糖尿病学会より販売され、現在第6版まで出ています(現在、改訂版の発刊が予定されており、いま流行の炭水化物制限について、学会なりの解答を含んだ、交換表となる予定です)。
先程の、一日1800キロカロリーの男性会社員の場合、1食が600キロカロリーとなり、その55%を炭水化物とすると330キロカロリー、50%制限ですと、300キロカロリーです。ごはんは50gが80キロカロリー(1単位)ですから、150~200gの範囲では摂取が可能です。果物を摂りたければ、炭水化物ですので注意が必要で、1日1単位とし、この分を考慮して先ほどのご飯は軽めにしておく必要があります。料理を和食で考えるなら、ここは焼き魚で主にタンパク質を摂取する、小鉢に肉じゃがを付けるなら、そのなかのジャガイモは炭水化物ですのでその分を考慮して、ごはんを減らします。また肉のタンパク質と焼き魚のタンパク質を計算し、貧血などにならないように鉄分を含むひじきの小鉢をつけて、こちらは海藻ですので味付けの油の分を考慮すれば、摂取カロリーは1単位未満。あとは、色々な色のついた野菜でビタミンとミネラルを摂取。プチトマト・ヤングコーン・ブロッコリー・レタスなどの前菜を用意すれば、バランスの取れた1食の出来上がりです。おかずが小鉢で選べる”○△食堂”などでこのように考えておおよそ計算をしていただければ良いわけです。
イメージとしては、お子様ランチや定食セットを思い浮かべていただくのが良いと思います。最近は、大人のお子様ランチというものありますが、ワンプレートを使用して、過食にならないようにするのも工夫の一つです。また、ご飯の量がわかりにくいという人のために、カロリーが一目でわかる「DHCダイエットお茶碗」というものも販売されています。茶碗の中に3本の線が入っており、160kcal・250kcal・330kcalとなり、軽く1膳、普通に1膳、大盛り1膳となっている様です。他社からも茶碗の大きさで、100kcal用、150kcal用、200kcal用茶碗となっているものもありますので、上手に利用してみてはどうでしょうか。
当院では、糖尿病療養指導士の資格を持ち経験の豊富な栄養士が、個別の相談をお受けしております。食事療法が難しいと思われている方、これから始めたい方は、お気軽にスタッフにお声を掛けて下さい。予約制ですので、お時間の合う日をお選び下さい。
運動療法について
運動療法は、食事療法・薬物療法と併せて、糖尿病治療の「三大柱」といわれています。
糖尿病の治療だけでなく、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病の治療に、骨粗鬆症やアンチエイジングにも欠かせない大切な治療方法です。
運動療法の効果
糖尿病の発症する主な原因は過食と運動不足です。栄養過多により膵臓が疲弊化し、インスリン分泌が低下することが、糖尿病が発症する大きな原因となります。肥満による内臓脂肪の増加もインスリンの効きを悪くして(インスリン抵抗性と呼びます)膵臓の疲弊化を招きます。
そこで、定期的に運動(有酸素運動)することにより、筋肉におけるブドウ糖や遊離脂肪酸の利用が促進されます。継続により、筋肉量を増加させ基礎代謝を上げ、更に脂肪を燃焼させることにより肥満を解消し、インスリン抵抗性を改善させる、という治療のための良い循環を繰り返すことにより、糖尿病のコントロールを改善させることに繋がります。
心肺機能や筋肉の老化を抑え体力を維持し、骨に適度の運動刺激を与えることで骨粗鬆症も予防にもなり、アンチエイジング効果にもなります。
当然、血管をしなやかにする効果もあり、高血圧の改善に有効であり、そして脂質異常症の改善にも有用です。
運動の方法
有酸素運動の代表的なものは、ウォーキングやジョギングがあります。しかし、肥満が高度のため膝関節や腰に負担がかかり易い人は、水泳やエアロバイク、サイクリング、ラジオ体操などから徐々に始めることが安全に継続するために大切です。
運動を行う時間帯と時間
運動を行う時間帯は、食後1時間目から2時間目辺りが血糖値の上昇する時間帯ですので、その時間帯に運動をするのが最も効果的です。1回の運動は30分位を目安に行いましょう。 天気の悪い日などは室内で行える運動を行い、週に3回以上行う習慣をつけましょう。 1日3回毎食後に運動療法を行う事ができれば最も理想的ですが、仕事があるので実行できない場合が殆どです。そのために、生活の中で体を動かす習慣をつけることが大切です。通勤の中で、積極的に階段を使うようにする。会社でエレベーターを使わないように努める。昼食後に軽く散歩をする等。主婦の方も、朝食後1時間したら、掃除機をかけたり布団を干すなど、家の中を動き回る。昼食後は歩いて買い物に出かける等工夫をしてみましょう。
※体調の悪いときは無理をしないで、しっかりと休みをとりましょう。脱水に注意をするため、水分を十分に補給すること、準備運動やクーリングを行うことも必要です。
また、合併症のある患者さんは、主治医と相談しながら運動量や方法を考えて実施しましょう。
当院における療養指導について
医師・看護師・栄養指導士・薬剤師により、個別指導と集団指導を行い、個人の患者背景、知識や問題点に合わせ、どのようにすれば、糖尿病のjコントロールを良好にして、かつ長期的にフォローを行えるか、患者さんとともに勉強していきます。
糖尿病連携手帳・自己管理ノート・高血圧手帳・糖尿病眼手帳・お薬手帳などをお渡しして、患者さん自身の治療状態が客観的に把握できるようにし、他院・他科を受診するときにも、手帳を見せることで現状を判断していただくことができます。